年末の資金繰りと節税準備——中小企業経営者が10月に見直すべき3つの視点

10月は、多くの中小企業にとって「中間決算」や「年末決算」の準備が始まるタイミングです。資金繰りの見直しや、節税対策、来期への投資準備など、経営者が最も“お金”と向き合う季節といえます。

一方で、今年の経営環境は例年以上に厳しさを増しています。人件費や光熱費の上昇に加え、社会保険料・税負担の増加が企業のキャッシュを圧迫しており、資金繰りに課題を感じる経営者が急増しています。

1．「賃上げ圧力」と「固定費上昇」が経営を直撃

政府は物価高への対応として「賃上げ促進税制」や「最低賃金引き上げ」を進めています。2024年度の最低賃金は全国平均で1,004円（前年比＋43円）と過去最大の上げ幅となり、今後も上昇が続く見通しです。

この影響で、

• 従業員50名規模の企業で年間人件費が約1,000〜1,500万円増加

• 同時に会社負担の社会保険料も約200〜300万円上昇といった試算も出ています。

「社員のために賃上げをしたいが、資金がついてこない」という声が中小企業から多く上がっており、経営判断が難しくなっています。

2．「補助金・減税制度」はあるが“即効性”に欠ける

国や自治体は中小企業支援策を拡充しています。たとえば、

• 中小企業賃上げ促進税制（給与総額が増加した場合に税額控除）

• 設備投資減税制度（省エネ・生産性向上投資に対する特別償却）などが該当します。

しかし、これらは「申請から効果が出るまでに時間がかかる」という課題があります。税制による控除は翌期の申告時に初めて反映されるため、目の前の資金繰りには直結しません。補助金についても、採択後に実際の入金まで2〜6か月待ちというケースが一般的です。

「将来的には助かるが、今すぐ資金を確保したい」という経営者にとっては、実効性が感じにくい仕組みと言えます。

3．「キャッシュアウトの連鎖」が続く2024年下期

帝国データバンクの9月調査によれば、中小企業の営業利益率は平均▲1.8％と大幅に落ち込んでいます。

背景には次のような複合要因があります。

• 原材料・エネルギー価格の高止まり

• 物流・輸送コストの上昇

• 社会保険料・税負担増による現預金の流出

• 賃上げによる固定費の恒常的上昇

これにより、黒字経営であっても実際には資金が残らない“黒字倒産リスク”が高まっています。

多くの経営者が口を揃えて言うのは、「利益が出ても、キャッシュが増えない」という現実です。

4．今、見直すべきは「キャッシュの即効性」

こうした状況の中で、今あらためて見直されているのが「いかに早く現金を残すか」という資金戦略です。

売上を増やす・コストを下げるという従来の手法に加え、「税や社会保険の支出を最適化して、資金を会社に留める」という観点が経営戦略の中心になりつつあります。

特に、年末は賞与・仕入・納税といった大口支出が重なるため、一時的にキャッシュが減る時期です。この時期に早期の資金繰り対策を講じられるかどうかが、翌期の事業余力を左右します。

5．まとめ：2024年の「資金繰りと節税」は“スピード重視”へ

かつては「補助金」や「減税制度」を中心に対策を講じる企業が多くありました。しかし現在は、“即効性”を求める動きが明確になっています。

物価・賃上げ・保険料上昇といった固定的支出が続く中、いかに“今期中”に資金を残すか。この視点が、企業の安定経営に直結します。

来期に向けた成長投資のためにも、年末を迎える今こそ、資金フロー全体を見直す絶好のタイミングです。